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掛け軸

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日本でもおなじみの掛け軸ですが、その発祥は中国にあります。ここでは、中国における掛け軸の誕生の歴史、日本に伝来してからの発展の歴史、中国掛軸の主な特徴、主な種類、有名な作者などについてご紹介します。

中国掛け軸のルーツと日本での歴史

中国掛け軸が誕生した時期については諸説ありますが、通説として認知されている時期は西暦1000年頃。北宋の時代にあたります。
ただ日本では、それよりも前の飛鳥時代には掛け軸が存在していました。かつ、その掛け軸は「中国から伝わった文化」として認識されていました。これらの経緯から、中国掛け軸は、西暦800~1000年代頃にかけ、ゆっくりと成熟していった文化と考えて良いかもしれません。

恐らく飛鳥時代に日本に伝来したであろう掛け軸は、その後、中国とは異なる日本独自のスタイルで発展を遂げていきます。
鎌倉時代には、禅宗の影響で水墨画が流行しましたが、その流行に乗って掛け軸もブームになりました。室町時代に入ると茶の湯(茶道)が隆盛し、茶室の床の間に飾る目的で、水墨画の掛け軸が多く使われるようになりました。この時、茶道における掛け軸の重要性を唱えた人物が千利休です。室町時代に掛け軸が一層普及した背景には、この千利休の存在が大きかったといわれています。

掛け軸が全国的に普及するようになった時期は、江戸時代以降です。特に18世紀に入ると、江戸を中心に活躍していた狩野派と並ぶように、京都の画壇も賑やかとなり、それに伴って掛け軸も注目されるようになっていったと伝えられています。

中国掛け軸の特徴

中国掛け軸の主な特徴を理解するためには、以下の5点を押さえておくことが大切です。それぞれを詳しく見ていきましょう。

日本の掛け軸とは「見た目」が明らかに異なる

中国掛け軸と日本の掛け軸は、「見た目」が明らかに異なるため、プロでなくても簡単に両者を判別することができます。主な違いは次の2点です。

絵のテーマの違い

日本の掛け軸の場合、山や河を描きながらも、全体的には季節の風情を感じさせるテーマが漂っています。一方で中国掛け軸の場合には、山や河そのものをテーマにした力強い作品が多く、季節の風情を感じさせる作品は多くありません。

サイズや軸先の形の違い

一般に日本の掛け軸は床の間に飾られるものなので、床の間に合わせたサイズ・長さの掛け軸がほとんどです。一方で中国掛け軸には、そのような暗黙のサイズ基準が存在せず、日本の掛け軸に比べれば大きめ・長めのものが多い傾向です。また、掛け軸を吊る表木(紐がついている部分)を見ると、日本の掛け軸は半月状であるのに対し、中国掛け軸は四角形となっています。

日本の掛け軸と中国掛け軸との技法の違い

日本の掛け軸と中国掛け軸の技法の違いは、特に山水画で顕著に見られます。日本の山水画では、「にじみ・ぼかし」を効かせた技法が多用されています。一方で、中国の山水画では、対象物の輪郭を明瞭に描く技法が好まれます。ほとんどの山水画において、日本系か中国系かを容易に区別することができるでしょう。

書画同源とは

書画同源とは、「詩と絵画をセットにする」という考え方のことです。中国の掛け軸を始め、一般に中国絵画には詩が添えられた作品を多く目にしますが、それは書画同源の考え方が反映されているからです。
絵が単独で描かれる日本の掛け軸とは、大きく異なる特徴です。

文人表具とは

文人表具とは、中国掛け軸の表装に使用される表具のことです。明王朝時代の文人画の表装として用いられていました。文人表具には、袋仕立て・明朝・唐表具の3種類があります。

落款印とは

落款印とは、掛け軸に押されている印のことです。日本の掛け軸にも落款印が押されますが、日本では単に「作者のサイン」「完成品の証明」として使用されているのに対し、中国では落款印自体が高い芸術性を持つものとして鑑賞の対象となります。
また、中国の掛け軸の落款印は、作者だけではなく所有者も押すものとされています。そのため、所有者が代わるごとに落款印が増えていくことになり、その落款印の数も掛け軸の価値に影響を与えることがあります。

中国掛け軸の主な種類

中国掛け軸の種類は、大きく分けて次の5種類になります。鑑賞の参考として、それぞれの特徴を見てみましょう。

中国水墨画

水墨画とは、墨を主顔料とし、濃淡を操りながら絵の対象物に強弱を与える絵画ジャンル。「にじみ・ぼかし」が多用される日本の水墨画とは異なり、中国の水墨画は、明瞭で力強い印章があります。

中国山水画

山水画とは、山や木、岩石、鳥獣などの自然を対象に描く絵画ジャンル。日本の山水画は風景画に近い作品が多いのに対し、中国の山水画は空想上の風景や霊獣などが描かれることが多いのが特徴です。

中国花鳥画

花鳥画とは、花や鳥、虫、草木、小動物などが描かれた絵画ジャンル。中国花鳥画においては、画中に言葉遊びなどが交えられることも多く、主に文人同士の贈答用として用いられていたようです。

院体画

院体画とは、職業画家によって描かれた絵画ジャンル。後述する文人画とは対照的に、画家の主観ではなく対象物の客観性を重視して描かれる絵画です。墨の濃淡を操り、写実的に花鳥や山水などを描きます。

文人画

文人画とは、文人や知識人が趣味として描く絵画ジャンル。院体画とは対照的に、作者の主観を重視して描かれる点が特徴です。中国では高く評価される絵画ジャンルの一つでもあります。

中国掛け軸の著名な作者

中国には多くの著名な掛け軸の作者がいます。それら作者の中から、大きく歴史に名を残している3人をご紹介します。

呉昌碩(ご しょうせき)

1844年生まれ。中国で最も優れた芸術家の一人とされています。画家、書家、篆刻家、詩人として、それぞれの分野で卓抜した作品を残したことから「四絶」と評されることもありました。
学者の家系に生まれ、幼少時から勉学に熱心だった呉昌碩。22歳で科挙の試験に合格するも就職せず、小職を転々としながら創作活動を継続。84歳で亡くなるまで、数々の名作を世に残しました。代表作は「牡丹水仙図」や「臨石鼓文」。
日本の芥川龍之介、犬養毅、北大路魯山人らの著名人との親交があったことでも知られています。

呉昌碩の作品

80歳前後の晩年の作品と思われる掛け軸。本作には700万円の査定金額がついています。
呉昌碩の掛け軸

斉白石(さい はくせき)

1864年、中国湖南省生まれ。画家、書家、篆刻家、詩人。もともと木工職人として働いていた斉白石でしたが、20代の頃に絵の才能があることを見いだされ、文人画家や詩人に師事。以後、掛け軸や絵画、書、印象など、様々な作品を精力的に作り続けました。90歳を過ぎてからも創作意欲が衰えず、年間で600点以上もの作品を創作したとされています。「中国のピカソ」とも呼ばれています。
中央美術学院名誉教授、中国美術家協会首席、北京画院初代名誉院長などを歴任。

斉白石の作品

85歳前後の晩年の作品と思われる掛け軸。本作の査定金額は1,000万円。
斉白石の掛け軸

于右任(う ゆうじん)

1979年、中国陝西省生まれ。中国書家、詩人、政治家、教育家。最難関とも言われる中国科挙の試験に合格したものの、漢詩の内容が問題視されたことをきっかけに日本に留学。以後、中国や台湾で教育家・政治家として活躍する一方、漢詩や書の分野で多くの秀作を残しました。1912年に制作した「涇原故舊記」は代表作の一つ。
復旦大学、上海大学、西北農林科技大学などの創設者としても知られています。

于右任の作品

于右任の代表的な作品としては涇原故舊記」「變風集」「右任詩存」「于右任言行録」などがあり、いずれも非常に高く評価されています。
画像引用元:古美術 永澤(https://www.eizawa.com/artist/china/uyujin/)
于右任の掛け軸

王雪涛(おうせっとう)

1903年生まれ、中国河北省成安県出身。現代中国美術における花鳥画家の巨匠として知られる画家。小さな頃から絵画に親しみ、19歳の時に現在の中央美術学院である北京美術専門学校に入学。その後斉白石に師事し、「雪涛」の号を与えられています。
その作風は技巧に飛んでおり、西洋画家の色彩論を取り入れたことにより墨と色彩が響き合う鮮やかな画面が特徴。国内での評価も非常に高く、北京中国画院の設立にあたっては院務員・画師として選出されています。

王雪涛の作品

2017年ごろには日本円で1億120万円もの価格がつけられたこともある作品。自然の中の小さな命が生き生きと描かれています。
画像引用元:古美術 永澤(https://www.kakejiku-eizawa.com/4464/)
王雪涛の掛け軸

黄慎(こうしん)

黄慎は1687年生まれ、清代中期の画家。14歳の時に父を失い、画で生計を立てるために郷里を離れて絵を売る生活を送る中で鄭燮や李鱓らと交友。揚州を舞台に活躍した書画家の一群を示す「揚州八怪」のひとりとしても知られています。
黄慎は人物画を得意としていましたが、そのほかにも山水・花卉・草虫などもよく題材になったとされています。同郷の上官周に学んでおり精緻な人物画や山水画を多く描いていたものの、晩年には気勢が溢れる道釈画などを残しています。

黄慎の作品

詩書画に優れていたことで知られる黄慎の作品、「携琴坊友図」。
画像引用元:夏樹美術株式会社(https://natsukiart.co.jp/chineseart/koushin-2/)
黄慎の掛け軸

顧愷之

顧愷之(こ がいし)は、中国東晋の画家であり、唐代以降は名画の祖として尊ばれた存在です。虎頭将軍となったことから、顧虎頭とも称されます。

博学で才気ある人物として、画絶・才絶・癡絶(ちぜつ)の三絶を伝えるとされ、謝安からは「史上最高の画家」と評されたといわれています。顧愷之は肖像画や人物画に優れていたものの、人物を描くことが最も難しいと考えており、その中でもとりわけ瞳を描くこと「点睛」の重要性を述べています。

顧愷之の作品

「女史箴図」は、顧愷之の代表的な作品です。西晋の長華が宮女における女官の心得を書である「女子箴」をもとに絵を書き添えた絵巻物で9図あります。現在大英博物館に所蔵されており、六朝文化を代表する作品としても知られています。
画像引用元:Wikipedia(https://natsukiart.co.jp/chineseart/koushin-2/)
顧愷之の掛け軸

白雪石

白雪石(はくせつせき)は北京市出身の画家です。幼い頃から絵画を好んでおり、普通中学を卒業した後に梁樹年氏の元で山水画を学びました。北京中国が研究会・全国美術家協会の会員となり作品作りに力を注ぎ、日本や東南アジアでも個展が開かれています。また1958年には全北京芸術大学で教鞭をとり、後進の教育に力を注いだ人物です。

白石雪の作品はシンプルで明るく「詩意に富んでいる」と評されており、特に風景画には趣が感じられます。

白雪石の作品

「青峰脚下漁村」と名付けられた作品です。白雪石は、時代や地域を問わず多彩な絵画の要素を統合した画風となっており、特に桂林の風景を描くことを得意としていたことも特徴のひとつです
画像引用元:絵画骨董買取プロ(https://www.aojc.co.jp/artists/hakusetsusek)
白雪石の掛け軸

王鐸

王鐸(おう たく)は明末清初の官僚として活躍するとともに、書家としても知られている人物です。30歳のころに進士に合格したことから明朝に仕えた王鐸ですが、書道をはじめたのは10歳前後であったといわれています。

王鐸の作品の中には、連綿の勢いを行書草書に入れて思うままに書き続ける縦形式のものが多く見られます。リズム感や勢いを感じる作品が多いことが特徴であり、王鐸の書風は高く評価されています。日本の書道界へも大きな影響を与え、現代の書壇でも広く学ばれています。

王鐸の作品

王鐸の書風は自由奔放で気力に富みながらも、線質の素晴らしさが評価されています。いずれの作品においても風の赴くままに運筆しているような印象を受けますが、行間をゆったりととっていることからリズムに乗った躍動感を与える点が特徴といえるでしょう。
画像引用元:謙慎書道会(http://www.kensinn.org/kensinnten/event07.html)
王鐸の掛け軸

高価買取が期待できる中国掛け軸とは?

高額買取されやすい中国掛け軸の特徴

作家の作品である

日本の掛け軸と同様、名もない人の作品よりも、作家の作品のほうが高額買取につながります。

作家の作品であるかどうかの判別法として、掛け軸自体にある「落款」、または共箱にある「墨書き」の有無があります。ともに作家のサインのようなものです。

なお、中国掛け軸の場合、「落款」や「墨書き」だけで「誰の作品か」を読み取ることはできません。ただし、「誰の作品か」は分からなくても、「落款」や「墨書き」から「作家の作品」だということが分かれば、それだけで高額買取の対象となります。

共箱がある

共箱(掛け軸を保管する箱)が付属していれば、それだけで高額買取が期待できます。なぜならば、共箱が付属している中国掛け軸は、作家の作品である可能性が高いからです。

「漆の二重箱」や「墨書きのある箱」など、箱自体のクオリティもまた、査定額を高める要因となります。

軸先の素材が良い

掛け軸の軸先に象牙が用いられているなど、軸先の素材に高価な素材が使われている場合には、高額査定につながる可能性があります。なお、日本の掛け軸もまた、軸先の素材は大事な査定ポイントとなります。

単純に古い

同じような作品であっても、新しい掛け軸よりも古い掛け軸のほうが、より高い査定につながる傾向があります。作品の状態だけではなく、共箱の香りなどもチェックして作品の「古さ」を査定します。

なお、劣悪な保管状態で劣化した掛け軸も古そうには見えますが、経験豊富なプロの鑑定士の目をごまかすことはできません。

信頼できるルートから入手している

入手ルートが不明瞭な中国掛け軸は、贋作の可能性があります。「美術専門のオークション」や「骨董品専門店」など、信頼できるルートから入手したことが明らかな作品は贋作の可能性が低いため、高額買取につながることがあります。

高額買取する側の査定力も大事

いかに価値のある中国掛け軸であっても、それを買取する側に「見る目」がなければ、正しい査定をすることができません。たとえば、実際には高い価値がある中国掛け軸であっても、専門知識や経験が足りない鑑定士に預けた場合、贋作と判断される可能性がゼロではないので注意が必要です。

中国掛け軸の査定を依頼する場合には、その価値を正しく判断できる実績豊富な骨董品買取業者に預けるようおすすめします。

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