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書画

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中国の書画について解説していきます。

書画とは

書画の定義

書画とは、東洋美術における美術ジャンルの一つ。主に東アジアの国々に見られる美術ジャンルで、大きく分けると「墨で書のみを書いた作品」と「書と絵画を一体化させた作品」の2種類があります(厳密には「絵画のみの作品」もあります)。

書画冊

作者:倪元璐筆
所蔵者:東京国立博物館

書画冊

出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム
(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/TA-187?locale=ja)

「書と絵画を一体化させた作品」では、絵画に関連した書が添えられることが一般的。絵画と同じ題材の漢詩、または絵画にふさわしい漢詩などです。

松溪草堂図

作者:伝王蒙筆
所蔵者:東京国立博物館

17世紀(明~清時代)の王蒙による作品です。
王蒙が得意とした、文人の理想の境地を題材にした書斎図の様相がよくわかるものになっています。

松溪草堂図

出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム
(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/TA-173?locale=ja)

なお、大半の書画の形態は掛け軸となります。掛け軸に描かれた書画は、詩軸または詩画軸などと呼ばれることがあります。

東洋に書画が存在する理由

中国には、「詩・書・画」の3点には密接なつながりがあるという考え方があります。「詩書画三絶」という思想です。それぞれの表現方法は異なるものの、一つの世界を表現する際には、「詩・書・画」の3点を融合させることが理想と考える思想です。

この「詩書画三絶」の背景には、人の精神や形は自然の中から生まれ、自然の中で発達してきたという、東洋思想独自の考え方があります。日本で書画が抵抗なく受け入れられた理由は、すでに日本でも同じ考え方が浸透していたからなのでしょう。

中国書道の始まり

中国に文字が生まれたのは約3500年前。亀の甲羅や動物の骨に刻まれた「甲骨文字」が最古の漢字として確実なものであるとされています。その後、青銅器に記された「金文」、石に彫られた「石鼓文」を経て、約2000年前、筆と墨を使って文字を書くようになったと考えられています(諸説あり)。当初文字は実用として使われていましたが、時代と文化の変遷に従って書体も変わり、文字を美的に表現する芸術が生まれました。これが書画(書道)のはじまりで、中国では身分の高い者が身に着けておく教養「六芸(礼:礼節、楽:音楽、射:弓術、御:御者技術、書:文学、数:数学)」のひとつとされてきました。

なお、紀元前2500年頃、黄帝の史官であった蒼頡が鳥の足跡から文字(鳥跡文字、蝌蚪文字と呼ばれる)を創成したという記録も残っています。しかし、これについては確実な資料が発見されていません。

書道の成立と進歩

中国の書道の成立は、璽印文(印章文字)や貨布文字が使われるようになった春秋~戦国時代にさかのぼります。璽印文や武器に「鳥書」と呼ばれる鳥などを組み入れた装飾的な書体が混じるようになり、貨幣に文字が刻まれたことからも、文字が為政者や権力者だけでなく、民衆にも広がったことが推察されます。その後、秦の時代には、始皇帝が丞相の李斯に命じ、文字の統一を行います。その時使われたのが「小篆(秦篆・玉筯篆ともいわれる)」で、さらに小篆を簡略化し、簡単に書ける「隷書(古隷)」も使用されるようになりました。

元興元年(105年)、後漢の蔡倫が竹簡や木簡、絹布に代わり、樹膚・麻くず・ぼろきれ・魚網を使った「紙」=「蔡侯紙」を発明(現在では紙の改良者とされている)。この紙はヨーロッパ、日本にも伝わり、文化の進展はもちろん、書道の発展をも促します。さらに数多くの能書家を輩出するきっかけにもなったのです。

骨董価値のある書画とは

有名作家の書画などは骨董価値が高い

有名作家が書いた書画、または美術的・歴史的に価値のある希少性の高い書画は骨董価値が高くなる傾向があります。有名作家が書いた書画の中でも、特にその作家が得意としている画題の書画であれば、骨董価値は一層高くなるでしょう。

加えて、作家の署名や落款が付されていること、桐の共箱に入っていること、鑑定書があること、保存状態が良いことなども、付加価値が上がる要素になります。

なお、書画に限らず絵画全般において、署名や落款、共箱の存在は骨董美術としての付加価値が上がる要素です。特に中国美術の鑑定では、これらは非常に重視されるポイントとなります。

時代背景を理由に骨董価値が上がることもある

中国経済の急激な成長を背景に、中国国内では、過去に国外へ流出した中国の書画を取り戻したいという動きが見られます。また、骨董美術は不況に強い資産価値を持つことから、将来のバブル崩壊などに備える意味で書画を購入しておきたい、という資産家も中国にはいるようです。

近年、そのような時代背景・経済的背景を理由に、中国国内での骨董美術に対する需要が拡大。結果、書画を含めた中国美術の全般の骨董価値が上昇しています。

中国の書家

王羲之:王羲之は六朝時代(222~589年)に活躍し、最高峰の書を書いたとも言われる書家です。書の芸術性を高めた存在として「書聖」と称された書家でもあります。王羲之の書風には特徴がありません。あえて特徴を言うならば、上手でバランスの良い字、ということになるでしょう。しかし、一般的な書家とは異なる特徴のなさこそが、王羲之が「書聖」と称されるゆえんでもあります。

二王帖2卷目録評釋2卷

作者:晉王羲之王獻之書
デジタル化出版者:国立国会図書館

二王帖2卷目録評釋2卷

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
(https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2550982)

私たちが一般的な字を見たとき、「美しい/上手だ」と感じる字もあれば、「美しくない/上手ではない」と感じる字もあります。このとき「美しい/上手だ」と感じる字を確立した存在が王羲之。つまり王羲之の字は、私たちが思う字の模範的な基準になっている、ということです。

張芝(後漢時代):骨力があり、表現が豊かな草書を書き、「草聖」と称されました。

鍾繇(魏):武帝(曹操)の宰相。公式書体に代表される、八分・隷書(楷書)・行書の三体を得意とした。書には「宣示表」「薦季直表」「力命表」など(ほとんど伝承作品で不確実)。
初唐の三大家(唐):唐の初期に活躍した政治家であり、書家の虞世南、欧陽詢、褚遂良を指す。虞世南の「孔子廟堂碑」は欧陽詢の「九成宮醴泉銘」とともに「楷書の極則」とされる。褚遂良は隷書(楷書)に通じ、代表作は「雁塔聖教序」ほか。なお、唐代中期の政治家、書家で、特徴的な書法「顔法」で知られる顔真卿を合わせて「唐の四大家」とします。

宋の四大家:宋代を代表する文人、書家の蔡襄(各書体に通じ、飛白で草書を書き、それを飛草と呼んだ)、蘇軾(詩は宋代第一。文は「唐宋八家」の一人)、黄庭堅(草書を好み、詩人としても有名。江西詩派の開祖)、米芾(書画の蒐集、鑑定、臨模を行い、「書史」などの執筆。これらは重要な資料となっている)を指します。

趙孟頫(元):詩文や音楽にも精通、特に書画に優れた才能を発揮。書は智永の千字文を臨書、楷・行・草書は二王(王義之、王献之)を学びました。

また明の書家には、三宋二沈(三宋は宋克・宋璲・宋広、二沈は沈度・沈粲)、呉中派(沈周・文徴明・祝允明・王寵・陳淳など)、董其昌、張瑞図、黄道周、倪元璐、傅山、王鐸、
清の主な書家としては、劉墉、鄧石如、翁方綱、呉熙載、楊沂孫、趙之謙、呉昌碩、康有為、何紹基といった人たちがいます。

中国書画の魅力

世界中に中国書画の愛好家は存在しますが、とりわけ日本では広く中国書画が人気を集めているようです。

その主な理由の一つが、他国の文字に比べたときの漢字の表現幅の広さ。毛筆を使う以前に、漢字の造形そのものの中に、広い表現幅の可能性が秘められている点です。

二つ目の理由が、毛筆を使うことによって広がる漢字の表情。毛筆の使用による太さや濃淡の変化により、漢字には様々な表情が与えられます。毛筆の使い方に習熟している書家であればあるほど、力強さや繊細さ、華やかさ、衰退など、漢字に無限の表情を与えることができるでしょう。紙の種類を変えることによっても、書画による表現の幅を広げることが可能です。同じ漢字であっても、表情の変化の可能性は無限となるでしょう。

加えて三つ目の理由として、書画そのものではなく、書画を長く保存できるよう作られた華やかな装飾。「装飾は書画の命」と古くから言われますが、装飾の柄、材質や色合いなども含めたトータルでの完成度の高さが書画の魅力の一つと考えられています。

日本でも書道は芸術として定着していますが、漢字の意味や造形美をよく知る日本人にとって、中国書画は感覚的に受け入れやすい芸術の一つなのでしょう。

中国の書画作品

董其昌(とうきしょう) の作品

董其昌筆の書。

董其昌の書

中国書画の楽しみ方

せっかく美術館などで書を見る機会があるならば、ポイントを押さえて鑑賞を楽しみたいものです。書の鑑賞方法の基本を確認しておきましょう。

1.まずは書の全体を見てみましょう

まずは書を全体的に眺め、直感的に大雑把な印象を感じてみてください。「太くて力強い」、「弱々しくて何が書いているか分かりにくい」、「かすれていて全体が薄い」、「なぜか最後の文字だけデカい」等々、どんな印象でも構いません。

その印象を大切にし、なぜそのような印象の字なのか、ということに興味を持ってみましょう。

2.文字の意味を確認してみましょう

次に、書に書かれている文字の意味を確認してみましょう。楷書や隷書なら判読が可能ですが、篆書や草書は読みにくいかもしれません。美術館などであれば、作品の前や横に、書の内容が分かりやすい字で書かれていることが多いため、そちらを参考にしましょう。

文字の意味を知ることで、作者の思いが急にクリアになります。

3.書の作者を確認してみましょう

書の作者を確認し、現代の作者であれば、その人が所属している団体等を調べてみます。古い時代の作者であれば、作者の生い立ちや、当時の時代背景などを調べてみます。

美術館内の掲示のみで分からない場合には、メモをとって後で調べても良いでしょう。

4.じっくりと細部まで鑑賞してみましょう

ここまでの情報をベースにして、じっくりと細部まで鑑賞してみます。最初に全体像から抱いた印象に対し、何らかの答えを見つけられるかもしれません。たとえば、「最後の文字だけデカい」理由を漠然とでも分かってくれば、書の鑑賞は一気に楽しくなってくるものです。

5.心の中で字をなぞってみましょう

作者がどのような思いでこの作品を書いたのかを想像しながら、頭の中で一字ずつ、丁寧になぞってみましょう。筆順も正しくなぞってください。また、「自分ならば、この部分をこのように書く」などと想像しながらなぞってみても良いでしょう。

当然ではありますが、書そのものやショーケースには触れず、あくまでも頭の中でなぞるようにしてください。

6.改めて作品の全体を鑑賞してみましょう

最初に眺めたときの印象、文字の意味、作者の生い立ちや時代背景、詳細な書きぶりなどを踏まえた上で、改めて作品の全体を眺めてみましょう。

きっと、最初に眺めたときとは異なる印象を感じ取ることができるはずです。

以上が書の鑑賞方法の基本になりますが、実際に書を鑑賞する際には、必ずしも基本を厳格に守る必要はありません。逆に、これらの基本よりも個人的に気になる部分があれば、そこを重点的に鑑賞してみても良いでしょう。

他の芸術ジャンルと同様に、書の鑑賞にもルールや正解はありません。「なぜこの作品が高く評価されているのか」という視点を持ちながら、自分の感性を大切にした方法で鑑賞していっても良いでしょう。

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